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かにこうせん

蟹工船

小林 多喜二

「戦旗」1929(昭和4)年5月、6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 61,890 字 · 125 页

青空文庫

「おかしいな、何んだって、あの鬼顔出さないんだべ」

「やっきになって、得意のピストルでも打つかと思ってたどもな」

三百人は吃りの音頭で、一斉に「ストライキ万歳」を三度叫んだ。学生が「監督の野郎、この声聞いて震えてるだろう!」と笑った。――船長室へ押しかけた。

監督は片手にピストルを持ったまま、代表を迎えた。

船長、雑夫長、工場代表……などが、今までたしかに何か相談をしていたらしいことがハッキリ分るそのままの恰好で、迎えた。監督は落付いていた。

入ってゆくと、

「やったな」とニヤニヤ笑った。

外では、三百人が重なり合って、大声をあげ、ドタ、ドタ足踏みをしていた。監督は「うるさい奴だ!」とひくい声で云った。が、それ等には気もかけない様子だった代表が興奮して云うのを一通りきいてから、「要求条項」と、三百人の「誓約書」を形式的にチラチラ見ると、「後悔しないか」と、拍子抜けするほど、ゆっくり云った。

「馬鹿野郎ッ!」吃りがいきなり監督の鼻ッ面を殴りつけるように怒鳴った。

「そうか、いい。――後悔しないんだな」

そう云って、それから一寸調子をかえた。「じゃ、聞け。いいか。