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かにこうせん

蟹工船

小林 多喜二

「戦旗」1929(昭和4)年5月、6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 61,890 字 · 125 页

青空文庫

こっちから合図をしても、それが返って来なかった。――その遅く、睾隠しに片手をもたれかけて、便所紙の箱に頭を入れ、うつぶせに倒れていた宮口が、出されてきた。唇の色が青インキをつけたように、ハッキリ死んでいた。

朝は寒かった。明るくなってはいたが、まだ三時だった。かじかんだ手を懐につッこみながら、背を円るくして起き上ってきた。監督は雑夫や漁夫、水夫、火夫の室まで見廻って歩いて、風邪をひいているものも、病気のものも、かまわず引きずり出した。

風は無かったが、甲板で仕事をしていると、手と足の先きが擂粉木のように感覚が無くなった。雑夫長が大声で悪態をつきながら、十四、五人の雑夫を工場に追い込んでいた。彼の持っている竹の先きには皮がついていた。それは工場で怠けているものを機械の枠越しに、向う側でもなぐりつけることが出来るように、造られていた。

「昨夜出されたきりで、ものも云えない宮口を今朝からどうしても働かさなけアならないって、さっき足で蹴ってるんだよ」

学生上りになじんでいる弱々しい身体の雑夫が、雑夫長の顔を見い、見いそのことを知らせた。

「どうしても動かないんで、とうとうあきらめたらしいんだけど」