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かにこうせん

蟹工船

小林 多喜二

「戦旗」1929(昭和4)年5月、6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 61,890 字 · 125 页

青空文庫

弱い電気に触れるように、拇指のあたりが、チャラチャラとしびれる。イヤな気持がした。拇指を眼の高さにかざして、片手でさすってみた。――皆は、夕飯が終って、「糞壺」の真中に一つ取りつけてある、割目が地図のように入っているガタガタのストーヴに寄っていた。お互の身体が少し温ってくると、湯気が立った。蟹の生ッ臭い匂いがムレて、ムッと鼻に来た。

「何んだか、理窟は分らねども、殺されたくねえで」

「んだよ!」

憂々した気持が、もたれかかるように、其処へ雪崩れて行く。殺されかかっているんだ! 皆はハッキリした焦点もなしに、怒りッぽくなっていた。

「お、俺だちの、も、ものにもならないのに、く、糞、こッ殺されてたまるもんか!」

吃りの漁夫が、自分でももどかしく、顔を真赤に筋張らせて、急に、大きな声を出した。

一寸、皆だまった。何かにグイと心を「不意」に突き上げられた――のを感じた。

「カムサツカで死にたくないな……」

「…………」

「中積船、函館ば出たとよ。――無電係の人云ってた」

「帰りてえな」

「帰れるもんか」

「中積船でヨク逃げる奴がいるってな」

「んか※(感嘆符疑問符、1-8-78) ……ええな」