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かにこうせん

蟹工船

小林 多喜二

「戦旗」1929(昭和4)年5月、6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 61,890 字 · 125 页

青空文庫

「俺アもう今度こそア船さ来ねえッて思ってたんだけれどもな」と大声で云っていた。「周旋屋に引っ張り廻されて、文無しになってよ。――又、長げえことくたばるめに合わされるんだ」

こっちに背を見せている同じ処から来ているらしい男が、それに何かヒソヒソ云っていた。

ハッチの降口に始め鎌足を見せて、ゴロゴロする大きな昔風の信玄袋を担った男が、梯子を下りてきた。床に立ってキョロキョロ見廻わしていたが、空いているのを見付けると、棚に上って来た。

「今日は」と云って、横の男に頭を下げた。顔が何かで染ったように、油じみて、黒かった。「仲間さ入れて貰えます」

後で分ったことだが、この男は、船へ来るすぐ前まで夕張炭坑に七年も坑夫をしていた。それがこの前のガス爆発で、危く死に損ねてから――前に何度かあった事だが――フイと坑夫が恐ろしくなり、鉱山を下りてしまった。爆発のとき、彼は同じ坑内にトロッコを押して働いていた。トロッコに一杯石炭を積んで、他の人の受持場まで押して行った時だった。彼は百のマグネシウムを瞬間眼の前でたかれたと思った。それと、そして1/500秒もちがわず、自分の身体が紙ッ片のように何処かへ飛び上ったと思った。