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かにこうせん

蟹工船

小林 多喜二

「戦旗」1929(昭和4)年5月、6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 61,890 字 · 125 页

青空文庫

重役の娘と、何時の間にか紳士のようになった工夫が相抱くところで幕だった。

間に、意味なくゲラゲラ笑わせる、短い西洋物が一本はさまった。

日本の方は、貧乏な一人の少年が「納豆売り」「夕刊売り」などから「靴磨き」をやり、工場に入り、模範職工になり、取り立てられて、一大富豪になる映画だった。――弁士は字幕にはなかったが、「げに勤勉こそ成功の母ならずして、何んぞや!」と云った。

それには雑夫達の「真剣な」拍手が起った。然し漁夫か船員のうちで、

「嘘こけ! そんだったら、俺なんて社長になってねかならないべよ」

と大声を出したものがいた。

それで皆は大笑いに笑ってしまった。

後で弁士が、「ああいう処へは、ウンと力を入れて、繰りかえし、繰りかえし云って貰いたいって、会社から命令されて来たんだ」と云った。

最後は、会社の、各所属工場や、事務所などを写したものだった。「勤勉」に働いている沢山の労働者が写っていた。

写真が終ってから、皆は一万箱祝いの酒で酔払った。

長い間口にしなかったのと、疲労し過ぎていたので、ベロベロに参って了った。薄暗い電気の下に、煙草の煙が雲のようにこめていた。