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はえ
蠅
海野 十三
「ぷろふいる」1934(昭和9)年2月号~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,774 字 · 40 页
「ああ、お嫁さんなの……」
と会主は大きく肯いてみせた。
「いいのがあるワ。あたしの遠縁の娘だけれど。丸ぽちゃで、色が白くって、そりゃ綺麗な子よ」
「へえ! それを僕にくれますか」
「まあ、くれるなんて。貰っていただくんだわ。ほほほほ」
と会主は吃驚するような大きな顔で笑った。
そんなわけで、彼は間もなく、新邸の中にまたもう一つ新しく素晴らしいものを加えた。それは生々しい新妻であることは云うまでもあるまい。
新世帯というのを持ったものは誰でも覚えがあるように、三ヶ月というものは夢のように過ぎた。妻君は一向子供を生みそうもなかった代りに、ますます美しくなっていった。やがて一年の歳月が流れた。その間、彼はあらゆる角度から、妻君という女を味わってしまった。そのあとに来たものは、かねて唱えられている窒息しそうな倦怠だった。彼の過去の精神酷使が、倦怠期を迎えるに至る期限をたいへん縮めたことは無論である。彼はひたすら、刺戟に乾いた。なにか、彼を昂奮させてくれるものはないか。彼は妻君が寝台の上に睡ってしまった後も、一人で安楽椅子によりながら、考えこんだ。白い天井を見上げると、黒い蠅が一匹、絵に書いたように止まっていた。