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はえ

蠅

海野 十三

「ぷろふいる」1934(昭和9)年2月号~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,774 字 · 40 页

青空文庫

ああ、突然の駭き。それはどこからうつしたものか、彼と妻君との戯れが長尺物になって、スクリーンの上にうつし出されたではないか!

「呀ッ。――」

と彼は一言叫んだなりに、呆然としてしまった。

(何故だろう。何故だろう)

彼は憤るよりも前に、まず駭き、羞らい、懼れ、転がるように会場から脱け出でた。そして自分の部屋に帰って来て、安楽椅子の上に身を抛げだした。そしてやっとすこし気を取り直したのだった。

(何故だろう。あの怪映画は、自分たちの楽しい遊戯を上の方から見下ろすように撮ってあった。一体どこから撮ったものだろう。撮るといって、どこからも撮れるようなものはないのに……)

と、彼はいぶかしげに、頭の上を見上げた。そこには、依然として真新しい白壁の天井があるっきりだった。別にどこという窓も明いている風に見えなかった。ただ一つ、気になるといえば気になるのは、前から相も変らず、同じ場所にポツンと止まっている黒い大きい蠅が一匹であった。

「どうしてもあの蠅だ。なぜあの蠅だか知らないが、あれより外に怪しい材料が見当らないのだ!」

そう叫んだ彼は、セオリーを超越して、梯子を持ってきた。