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はえ
蠅
海野 十三
「ぷろふいる」1934(昭和9)年2月号~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,774 字 · 40 页
或るものは、心臓の真中を刺し貫いてゆく。また或るものは卵巣の中を刺し透し、或るものはまた、精虫の頭を掠めてゆく。こう言っている間も、私たちの全身は夥しい宇宙線でもってプスリプスリと縫われているのだ。
一体、そんなにプスリと縫われていて差支えないものか。差支えないとは云えない、たとえば、精虫が卵子といま結合しようというときに、突然数万の宇宙線に刺し透されたとしたらどうであろう。お盆のように丸くなるべきだった顔が、俄然馬のように長い顔に歪められはしまいか。
私はこの頃人造宇宙線の実験に没頭しているが、いつもこの種の不安を忘れかねている次第である。人造が出来るようになってからは宇宙線の流れる数は急激に増加した。ことに私どもの研究室の中では、宇宙線が霞のように棚曳いている。恐らく街頭で検出できる宇宙線の何百倍何千倍に達していることだろうと思う。私はこうして実験を続けていながらも、何か駭くべき異変がこの室内に現われはしまいかと思って、ときどき背中から水を浴びせられたように感ずるのだ。そんなことが度重なったせいか、今日などは朝からなんだか胸がムカムカしてたまらないのである。