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はえ
蠅
海野 十三
「ぷろふいる」1934(昭和9)年2月号~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,774 字 · 40 页
いま私は起き上って、蠅の入った壜を手にとって見ている。あれから三四時間のちのことであるが、二つ頭の蠅が、俄然五匹に殖えている。異変は続々と起っているのだ。そして生物学的にみて、何という繁殖の凄じさであろうか。何という怪奇な新生児であろうか。
私がもし生物学者であったとしたら、蠅が卵を生み始めた頃直ぐに、重大なる事柄に気がつかねばならなかったのである。随って、近頃の私自身の気分の悪さについても、早速思いあたらねばならなかったのであるが、幸か不幸か、私には蠅の雌雄を識別する知識がなかったのである。
実は私は――理学博士加宮久夫は、本日医師の診察をうけたところによると、奇怪にも妊娠しているというのである。男性が妊娠する――なんて、誰も本当にしないであろうが、これは偽りのない事実である。ああなんという忌わしき、また恐ろしいことではないか。男性にして妊娠したというのは、私が最初だったであろう。なぜ妊娠したか。その答えは簡単である。――この研究室に棚曳いている宇宙線が私の生理状態を変えてしまって、そして妊娠という現象が男性の上に来たのだ。
私が生物学者だったら、この壜の中の蠅が卵を生んでいるときに、既に怪異に気がつくべきだった。