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はえ

蠅

海野 十三

「ぷろふいる」1934(昭和9)年2月号~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,774 字 · 40 页

青空文庫

……それでよろしい、あのタンガニカ地方の砂地の温度が、ちょうどそのくらいなのだ。持って来た動物資料は、その温度に保って置かねば保存に適当でない」

「さよですか。しかし恒温室内からピシピシという音が聞えて参りますので、五十五度はあの恒温室の温度としては、すこし無理過ぎはしまいかと思いますが……」

「なーに、そりゃ大丈夫だ。あれは七十度まで騰げていい設計になっているのだからネ」

「はア、さよですか。では……」と助手はペコンと頭を下げて、廻れ右をした。

博士は、折角の気分を、助手のためにすっかり壊されてしまったのを感じた。といって別にそれが不快というのではない。ただ気分の断層によって、やや疲れを覚えて来たばかりだった。

博士は、白い実験衣のポケットを探ると、プライヤーのパイプを出した。パイプには、まだミッキスチェアが半分以上も残っていた。燐寸を擦って火を点けると、スパスパと性急に吸いつけてから、背中をグッタリと椅子に凭れかけ、あとはプカリプカリと紫の煙を空間に噴いた。

(探険隊の一行が、タンガニカを横断したときは……)と博士は、またしても学者としての楽しい憶い出をうかべていた。