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ちぬられたかいとう

血ぬられた懐刀

国枝 史郎

「講談倶楽部」1928(昭和3)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,586 字 · 71 页

青空文庫

素性を聞いたために秋安が、いよいよお紅という娘に対して、いわれぬ愛着と尊敬とを、感じたことは言うまでもない。

で、幾度も頷いたが、

「いずれ由緒あるお身の上とは、最初から存じて居りましたが、そのような名家の遺兒とは、思い及びも致しませんでした。そういうお方をお助けしたことは、この秋安にとりましては、名誉のことにござります。で、お尋ねいたしますが、今後はいかようになされます? やはりご廻国なさいますお気で?」

「はい」と云うと娘のお紅は、寂しそうに顔を俯向けたが、

「手頼り無い身にござります。一人ぼっちの身にござります。やはり諸国を巡りまして、神社仏閣を参拝し、この一生を終わります他には、手段はないように存ぜられます。今宵一夜だけお泊め下されて。明日はお許し下さりませ。早々においとまいたしまして……」

「旅へ立たれるお意なので?」

「そう致しとう存じます」

「が、またもや悪漢どもが、苦しめましたならどうなされます」

途絶えた鼓

これがお紅には気がかりなのであろう。俯向いたままで黙っている。

どうやら夜風でも出たらしい、この離座敷の中庭あたりで、木々のざわめく音がした。