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ちぬられたかいとう

血ぬられた懐刀

国枝 史郎

「講談倶楽部」1928(昭和3)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,586 字 · 71 页

青空文庫

そうしてヒラヒラと野路からは、絹糸のような陽炎が立つ。

万事四辺は明るくて、陽気で美しくて楽しそうであった。

が、暗いものが一つあった。他ならぬ秋安の心であった。

「萩野と馴染んで一年になる。その交情は厚かったはずだ。あの女を苦しめた覚えはない。愛して愛して愛し抜いたはずだ。裏切られるような薄情なことを、俺は一度もしたことがない。にもかかわらず裏切られた。女の心というものは、ああも手の平を飜えすように、ひっくりかえるものだろうか?」

考えながら歩いて行く。

「あの花園の森の中で、去年松の花の咲く頃に、はじめて恋を語り合ったが、同じ松の花の咲く季節の、今年の春には同じ森で、気不味い別離を告げようとは……何だか俺には夢のようだ。化かされているような気持もする」

考えながら彷徨って行く。

と、にわかに笑い出した。

「ハッハッハッ、何と云うことだ! 未練もいい加減にするがいい。向こうから俺を捨たのだ。何をクヨクヨ思っているのだ」

しかしやっぱり寂しかった。

で、あてなしに歩いて行く。

しかしそういう寂しい心を、厭でも捨なければならないような、一つの事件が勃発した。