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ちぬられたかいとう
血ぬられた懐刀
国枝 史郎
「講談倶楽部」1928(昭和3)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,586 字 · 71 页
「もう愛しても居りませぬので?」
「愛するものはお前ばかりだ」
「いいえ、そうしてこの秋秀も」
こう云ってお紅は笑ましそうに、嬰兒の方へ顔を向けた。
「可愛い坊や、可愛い坊や……妾は幸福でござりますよ」
「自分で幸福でいる時には、他人の幸福も願うものだよ。……萩野が幸福であるように」
「可愛らしい香具師さんが居りますのね」
こう云ってお紅が足を止めたので、秋安もふと足を止めた。
そうして萩野へ眼をやったが、萩野はその前から、深く俯向いていたがために、秋安には顔が見られなかった。そうして姿は香具師風である。萩野であることが何で判ろう。で、ゆるゆると行き過ぎた。
が、お紅は気安そうに、二人の香具師の前まで行った。
「お怒りなすっては困ります。私達は幸福なのでございます。どうぞ貴郎方ご夫婦にも、祝っていただきたいと存じます。粗末な物ではござりますが、私達の志でござります。お受け取りなすって下さいまし」
云い云いお紅は簪を抜いたが、萩野の前へそっと出した。
「はい、有難う存じます」
顔を上げた萩野の眼の中に、あふれる涙が光っていた。
「お美しい貴郎様のお志、いつ迄も忘れはいたしませぬ。