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ちまんだらしちょうぶし

血曼陀羅紙帳武士

国枝 史郎

「冨士」講談社 1939(昭和14)年9月~12月中絶、「血煙天明陣」桃源社 1970(昭和45)年に付載して完結公刊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,970 字 · 176 页

青空文庫

……この紙帳の内と外とで、俺は幾十人の人を殺したことか。……また、この中で、父上も俺も、どれほど考え苦しみ、怒り、悶え、憎み、喜び、泣き、笑ったことか。紙帳こそは、父上と私との、思考と行動との中心であった。……その紙帳が、曼陀羅の相を呈したとは?)

考えに沈んでいる左門の前で、血曼陀羅の紙帳は、微風に揺れ、皺を作ったり、襞を拵えたりしていた。

(少くも曼陀羅の境地へ悟入るには、思考と行動とが同伴わなければいけないらしい。……少くも俺は、この紙帳の内と外とで、善悪共に、思考え且つ行動ったのは事実だ)

さっき紙帳へ停まって啼いていた頬白ででもあろうか、一羽の頬白が、矢のように翔けて来て、紙帳へ停まろうとしたが、鮮血の赤さに驚いたのか、飛び去った。

(紙帳が曼陀羅の相を呈したのは、この中で思考え行動った俺の行為が、曼陀羅の境地へ悟入る行為であったと教えてくれたのか? ……そんなことはない! ……では、将来曼陀羅の境地へ悟入るようにと啓示してくれたのか?)

左門はいつまでも佇んで考えていた。

やがて左門は頼母の方を振り返って見た。

頼母は、栞に縋られたままの同じ姿勢でいた。