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ちまんだらしちょうぶし

血曼陀羅紙帳武士

国枝 史郎

「冨士」講談社 1939(昭和14)年9月~12月中絶、「血煙天明陣」桃源社 1970(昭和45)年に付載して完結公刊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,970 字 · 176 页

青空文庫

キリキリという、轍の軋るような音を聞き、頼母は、枕から顔を放し、耳を聳てた。

(何んの音だろう?)

音は、中庭まで来たようであった。

頼母は、夜具から脱け出し、枕もとの刀を握ると、立ち上がった。彼の眼は、すっかり覚めていた。彼は、朝飯を食べるや、すぐに床を取って貰い、ぐっすりと眠り、疲労を癒し、今は元気を恢復してもいるのであった。有り明けの燈に、刀の鞘を照らしながら、頼母は部屋を出、廊下を右の方へ歩き、それが、さらに右の方へ曲がっている角の雨戸を、そっと開けて見た。海の底かのように、庭は薄蒼く月光に浸っていた。庭は、まことに広く、荒廃れていた。庭の一所に、頼母の眼を疑がわせるような、物象が出来ていた。古塚のような形の、巨大な岩が、碑と小松とをその頂きに持って、瘤のように立っているのであった。それはまったく、頼母が、紙帳から出て来た武士によって、気絶させられた地点に――そこに出来ていた、野中の道了様そっくりのものであった。酷似といえば、塚の左手、遙か離れた所に、植え込みが立っていて、それが雑木林に見えるのも、あの場所の景色とそっくりであった。

(紙帳が釣ってはあるまいか?)ゾッとするような気持ちで、頼母は、植え込みを見た。