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ちまんだらしちょうぶし

血曼陀羅紙帳武士

国枝 史郎

「冨士」講談社 1939(昭和14)年9月~12月中絶、「血煙天明陣」桃源社 1970(昭和45)年に付載して完結公刊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,970 字 · 176 页

青空文庫

当時の若衆形、沢村あやめに似ていると称された美貌は、月光の中で蒼褪めて見えた。

武士は、頼母の前、一間ばかりの所で立ち止まったが、「まだお若いの。若い貴殿を蜘蛛の餌食にするのも不愍、斬るのは止めといたすが、云い出したからには、腰の物は拝見いたさねばならず……眠らせて!」

「黙れ!」

鍔音がした!

「はーッ」と頼母は、思わず呼吸を引いた。武士によって鳴らされた鍔音が、神魂に徹ったからであった。

猛然と頭巾が逼って来た。頭巾の主の体が、怒濤のように殺到して来た。そうして次の瞬間には、頼母は、地上へ叩き付けられていた。体当たりを喰らったのである。

俯向けに地に倒れた頼母は、(俺はここで死ぬのか。死んでは困る。俺は父の敵五味左門を討たなければならないのだから)と思った。

そういう彼の眼に見えたものは、彼の両刀を調べている武士の姿であった。そうして、その武士の背後の地面から、瘤のように盛り上がっている古塚であった。その古塚は、数本の松と、一基の碑とを、頂きに持っていた。そうして……しかし、頼母の意識は朦朧となってしまった。

参詣に来た娘

その頼母が、誰かに呼ばれているような気がして、正気づいた時、まず見えたのは、自分の顔へ、近々と寄せている、細い新月のような眉、初々しい半弓形の眼の、若い女の顔であった。