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ちまんだらしちょうぶし
血曼陀羅紙帳武士
国枝 史郎
「冨士」講談社 1939(昭和14)年9月~12月中絶、「血煙天明陣」桃源社 1970(昭和45)年に付載して完結公刊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,970 字 · 176 页
賭場は、今が勝負の最中らしく、明神へ参詣帰りの客や、土地の者が、数十人集まってい、盆を囲繞いて、立ったり坐ったりしていた。世話をする中盆が、声を涸らして整理に努めているかと思うと、素裸体に下帯一つ、半紙を二つ折りにしたのを腰に挾んだ壺振りが、鉢巻をして、威勢のよいところを見せていた。正面の褥の上にドッカリと坐り、銀造りの長脇差しを引き付け、盆を見ている男があったが、これが五郎蔵で、六十五歳だというのに、五十そこそこにしか見えず、髪など、小鬢へ、少し霜を雑じえているばかりであった。段鼻の、鷲のような眼の、赧ら顔は、いかにも精力的で、それに、頤などは、二重にくくれているほど肥えているので、全体がふくよかであり、武士あがりというだけに、品があり、まさに親分らしい貫禄を備えていた。甲州紬茶微塵の衣裳に、紺献上の帯を結んでいるのも、よく似合って見えた。その横に女が坐っていた。以前から五郎蔵が、自分のものにしようと苦心し、それを、柳に風と受け流し、今に五郎蔵の自由にならないところから、博徒仲間で、噂の種になっている、お浦という女であった。二業――つまり、料理屋と旅籠屋とを兼ねた、武蔵屋というのへ、一、二年前から、流れ寄って来ている、いわゆる茶屋女なのである。