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ちまんだらしちょうぶし
血曼陀羅紙帳武士
国枝 史郎
「冨士」講談社 1939(昭和14)年9月~12月中絶、「血煙天明陣」桃源社 1970(昭和45)年に付載して完結公刊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,970 字 · 176 页
そのために左衛門は悲憤し、屠腹して死んだのであるから、左衛門を殺したのは、父であると云われても仕方がなく、左衛門の忰左門が、父を討ったのは、敵討ちということになる。その左門を、自分が、父の敵として討つということは、ご法度の、「又敵討ち」になろうではあるまいか)
(いっそ、天国を手に入れ、打ち砕き、この世からなくなしてしまったら)
こんな考えさえ浮かんで来るのであった。
(天国のような名刀が、二本も三本も、現代に残っている筈はない。あの天国さえ打ち砕いてしまったら)
枯れ草に溜っている露を、足に冷たく感じながら、頼母は、府中の方へ歩いて行った。
と、行く手に竹藪があって、出たばかりの月に、葉叢を、薄白く光らせ、微風にそよいでいたが、その藪蔭から、男女の云い争う声が聞こえて来た。頼母は、(はてな?)と思いながら、その方へ足を向けた。
府中の方へ流れて行く、幅十間ばかりの、髪川という川が、竹藪の裾を巡って流れていて、淵も作れないほどの速い水勢が、月光を銀箔のように砕いていた。その岸を、男と女とが、酔っていると見え、あぶなっかしい足どりで歩き、云い争っていた。