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ちまんだらしちょうぶし
血曼陀羅紙帳武士
国枝 史郎
「冨士」講談社 1939(昭和14)年9月~12月中絶、「血煙天明陣」桃源社 1970(昭和45)年に付載して完結公刊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,970 字 · 176 页
彼の父左衛門は、生前、春、秋、冬を、その中に住み、夏は紙帳を畳んで蒲団の上に敷き、寝茣蓙代りにしたが、左門も、春、秋、冬をその中に住み、夏は寝茣蓙代りに、その上へ寝た。そういうことをすることによって、亡父の悩みや悶えを体得したかったのである。そう、彼の父左衛門は、紙帳に起き伏ししながら、天国の剣を奪われて以来衰えた家運について、悩み悶えたのであった。……しかるに左門は、紙帳の中で起き伏しするようになってから、だんだん一本気となり、狭量となり、残忍殺伐となった。何故だろう? 狭い紙帳を天地とし、外界と絶ち、他を排し、自分一人だけで生活すようになったからである。そういう生活は孤独生活であり、孤独生活が極まれば、憂欝となり絶望的となる。その果ては、気の弱い者なら自殺に走り、気の強いものなら、欝積している気持ちを、突発的に爆発させて、兇暴の行為をするようになる。左門の場合はその後者で、無意味といいたいほどにも人を斬り、残忍性を発揮するのであった。
「突然はいって来たこの女は? ……」
呟き呟き彼は、女の寝顔を見た。その眼は、の最後の一画を、眉の下へ置いたかのように、長く、細く、尻刎ねしていた。