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ちまんだらしちょうぶし

血曼陀羅紙帳武士

国枝 史郎

「冨士」講談社 1939(昭和14)年9月~12月中絶、「血煙天明陣」桃源社 1970(昭和45)年に付載して完結公刊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,970 字 · 176 页

青空文庫

それにしても、蜘蛛の網が、何んとその領分を拡大めたことであろう! 紙帳の天井にさえ張り渡されてあるではないか。血飛沫によって作られた網が! 思うにそれは、先夜、飯塚薪左衛門の屋敷で、左門によって討たれた浪人の血と、片足を斬り取られた浪人の血とによって、新規に編まれた網らしく、血の色は、赤味を失わないで、今にも、糸のように細い滴を、二人の男女へ、したたらせはしまいかと思われた。

お浦は、夜具からはみ出した腕を、宙へ上げ、何かを探すような素振りをしたが、

「頼母様! 天国様を持って参りました!」

と叫んだ。もちろん、夢中で叫んだのである。

その頼母は、ずっと以前から、壁一重へだてた隣りの部屋に、お浦を待ちながら、粛然と坐り、「一刀斎先生剣法書」を、膝の上へ載せ、行燈の光で、読んでいた。

下婢の敷いて行った寝具は、彼の手で畳まれ、部屋の片隅に置かれてあった。女を待つに寝ていてはと、彼の潔癖性が、そうさせたものらしい。前髪を立てた、艶々しい髪に包まれた、美玉のような彼の顔は、淡く燈火の光を受けて、刻りを深くし、彫刻のような端麗さを見せていた。

「事ノ利ト云フハ、我一ヲ以テ敵ノ二ニ応ズル所也。