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ちまんだらしちょうぶし
血曼陀羅紙帳武士
国枝 史郎
「冨士」講談社 1939(昭和14)年9月~12月中絶、「血煙天明陣」桃源社 1970(昭和45)年に付載して完結公刊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,970 字 · 176 页
……乳母!」と、娘は立ち上がりながら呼んだ。
五十あまりの、品のよい婦が、古塚のような小丘の裾に佇んでいたが、すぐに寄って来た。それへ娘は何やら囁いた。
「はい、お嬢様、かしこまりましてございます」乳母はそう云ったかと思うと、雑木林を巡って歩いて行った。
娘は、しばらくそれを見送っていたが、やがて屈むと、地に置いてあった線香の束を取り上げ、「どれ、それでは妾は、ちょっと道了様へ。……」と云い、古塚のような、小丘の方へ歩いて行った。
(あれが道了様なのか)と、頼母は、それでもようやく起き上がった体を、小丘の方へ向け、つくづくと眺めた。それは、高さ二間、周囲十間ぐらいの大岩で出来ている塚であったが、その面に、苔だの枯れ草だの枯れ葉だのがまとい付いている上に、土壌が蔽うているので、早速には、岩とは見えなかった。塚の頂きに立っている碑には、南無妙法蓮華経と、髭題目が刻まれていた。碑は、歳月と風雨とに損われて、諸所欠けている高さ六尺ぐらいの物で、色は黝かったが、陽に照らされ、薄光って見えた。その碑の面を、縒れたり縺れたりしながら、蒼白い、漠とした物が立ち昇って行った。