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ちまんだらしちょうぶし
血曼陀羅紙帳武士
国枝 史郎
「冨士」講談社 1939(昭和14)年9月~12月中絶、「血煙天明陣」桃源社 1970(昭和45)年に付載して完結公刊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,970 字 · 176 页
紙帳の角がすぐ前にあった。角の向こう側に、左門が隠れているかもしれない。頼母は、やにわに刀を突き出して見た。闇を突いたばかりであった。額に、冷たい汗を覚えながら、頼母はホッと息を洩らし、紙帳の角まで進んだ。前方を睨んだ。部屋の壁と、紙帳の側面とで出来ている空間が、ただ、暗く細長く見えるばかりで、敵の姿は見えなかった。頼母は、ソロソロと進んだ。すぐに、紙帳の二つ目の角まで来た。
頼母の足は動かなくなった。(あの角の向こう側にこそ)こう思うと、居縮むのであった。ほんのさっきまで、左門など何者ぞと、気負い込んでいた彼の自信も勇気も、今は消えてしまった。技倆の相違がそうさせるのであり、十畳敷きほどの狭いこの部屋の中に、恐ろしい相手が確かにおりながら、その姿が見えないということが、そうさせるのであった。
(どうしたものか?)
この時、霊感のようなものが心に閃めいた。
頼母はやにわに刀を空に揮った。紙帳の釣り手を切ったのである。紙帳の一角が、すぐに崩れ出した。やわやわと撓み、つづいて沈み、方形であった紙帳が、三角の形となって、暗い中に懸かって見えた。しかし、左門の姿は見えなかった。