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ちまんだらしちょうぶし

血曼陀羅紙帳武士

国枝 史郎

「冨士」講談社 1939(昭和14)年9月~12月中絶、「血煙天明陣」桃源社 1970(昭和45)年に付載して完結公刊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,970 字 · 176 页

青空文庫

「紙帳だーッ」

「うむ、紙帳が!」

二人ながら呻くように云った。

先夜、飯塚薪左衛門の屋敷で、紙帳の中の武士に、同僚二人を討たれたことを思い出したからである。

と、紙帳の釣り手が、次々に二ヵ所まで切られたのが見えた。

(何か事件が起こっている)と、二人ながら思った。

「小林氏」と、角右衛門は、汗を額へ産みながら、「これは、あの時の武士らしゅうござるぞ」

「さよう」と、紋太郎は、若年だけに、一層怯え、地に敷かれている影法師が揺れるほどに顫えながら、「其奴がまた誰かを……どっちみち、あの部屋で切り合いが……」

「彼奴とすれば同僚の敵、……討ち取らいでは……と云って、あの凄い剣技では……こりゃア親分にお話しして……」

「乾児衆にも……」

「うむ。……では貴殿……」

「心得てござる……」

と、紋太郎は、母屋の縁へ駈け上がり、五郎蔵一家の寝ている、奥座敷の方へ走って行った。

それを見送ろうともせず、怯えた眼で、角右衛門は、紙帳ばかりを見ていた。

と、また、釣り手が一筋切られた。

切ったのは頼母であった。

頼母は、あるいは左門が、最初の位置から身を移し、紙帳の、第一の角の背後に隠れていようもしれぬと思い、ソロソロと紙帳の裾を巡り、引き返し、真っ先に自分が曲がった紙帳の角まで近付き、釣り手を切って落としたのであった。