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ちまんだらしちょうぶし
血曼陀羅紙帳武士
国枝 史郎
「冨士」講談社 1939(昭和14)年9月~12月中絶、「血煙天明陣」桃源社 1970(昭和45)年に付載して完結公刊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,970 字 · 176 页
彼は、来る間に、紋太郎から、紙帳武士のどういう素姓の者であるかを聞かされた。飯塚薪左衛門の屋敷で、角右衛門や紋太郎の同僚を、二人まで、いわれもないのに討ち果たした悪侍とのことであった。しかし彼としては、その言葉を、どの程度まで信じてよいか解らなかった。が、庭へ出て来て、前髪立ちの武士から、その武士が、親の敵だと叫ばれ、その武士が、前髪立ちの武士を追って走って来、自分たちの姿を見るや、刀を背後へ隠して下げ、右腕を左胴まで曲げて柄を握り、右足を踏み出した異様な構えで、全身から殺気を迸らせながら、しかも寂然と静まり返って立った姿を見ると、容易ならない相手だと思い、いかさま、人など、平気で幾人でも殺す奴だろうと思った。
「野郎ども」と五郎蔵は、乾児たちに向かって怒鳴った。「あの三ピンを、引っ包んで膾に刻んでしまえ! しかし殺しちゃアいけねえ。止どめはお若衆に刺させろ! やれ!」
声に応じて乾児たちは、一本の杭を目差して、黒い潮が、四方から押し寄せて行くように、左門を目掛け、殺到した。
黒い潮が、渦巻き、沸き立つように見えた。飛沫が、水銀のように四方へ散った。