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まちはふるさと

街はふるさと

坂口 安吾

「読売新聞 第二六三六七号~第二六五二〇号」1950(昭和25)年5月19日~10月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 193,435 字 · 389 页

青空文庫

恨みを述べるわけじゃア、ないですよ。アベコベなんだ。その一夜が、転機なんだよ。万感コモゴモの次に、ホンゼンとして心機一転。それほどでもないが、なんとかしたと思いたまえ。ここ一週間、ミミズみたいに、どこか暗いところを這いずりまわり、のたくりまわってきたがね。実はね。今日は又、君の一筆が所望なんだ」

彼は益々明るく笑いたてて、

「実はね。梶せつ子の新社へ一介のサラリーマンとして採用してもらいたいんだ。恨みも迷いも、すてたんだ。それを捨てるのに、一週間、かかったんだよ。ねえ、君。考えてみれば、ほかに、オレみたいな老骨を拾ってくれる会社はないじゃないか。誇りなんぞ、持ってやしませんよ。生きるには、食わねばならず、食うには、どこかで拾ってもらわざるを得なくなったからですよ。枝葉末節を語ればキリがないが、荒筋はそれだけさ」

「働くポストは」

「門番でも、事務員でも、編集でも。長と名のつくものを望まないよ。女房に逃げられた男が、ふった情婦の店で働くのに御慈悲の長は所を得ていませんよ。まア、当分、考えることを探すわけさ。もし人生に考える価値のあるものが在ったとしたらね」