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まちはふるさと

街はふるさと

坂口 安吾

「読売新聞 第二六三六七号~第二六五二〇号」1950(昭和25)年5月19日~10月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 193,435 字 · 389 页

青空文庫

女の子の一人は、イヤがる風もなく、気軽に奥へ走りこんだ。

相当の時間またされたが、その償いのように、女の子は息をきらして戻ってきて、

「わかんない筈だわ。キッピイさんのことじゃないの」

先ず同僚に向ってこう報告すると、キッピイさんは有名人とみえて、女の子たちは顔を見合せて笑いだした。そして、意味ありげに、放二の顔を見た。あらためて、放二に興味をもちだしたようである。

駈け戻った女の子は窓口に首をのばして、

「その方はもう二ヶ月も前から居ないんです。もっと前になるかしら?」

「メーデーの翌日から」

「そう。忘れ得ぬ夜の出来事」

彼女らは声をそろえて笑った。

「何かあったんですか」

と、放二がきくと、駈け戻った子は目をふせて答えなかったが、ほかの一人はノドがムズムズする様子で、しかし直接放二には答えず、同僚に向って、

「あの人、共産党なのかしら?」

「うそよ。はじめはイタズラだったのよ。笑いながらデモ演説のマネしてたのよ。マダムが叱ってから、怒っちゃって、闘争演説はじめたのよ」

「そうでもないようよ」

「そんなことなくッてよ。ただの酔ッ払ッたアゲクよ。だけど、マスター行状記、バクロ演説、痛快だったわ」