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まちはふるさと

街はふるさと

坂口 安吾

「読売新聞 第二六三六七号~第二六五二〇号」1950(昭和25)年5月19日~10月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 193,435 字 · 389 页

青空文庫

ひとしきり笑いたてて、真顔にかえった。

「だからさ。礼子に会ってやってくれよ」

「なぜ」

「礼子がそれを語る適任者だからさ。ぼくなどの出る幕じゃないよ。礼子が君に語るであろう切々たる胸のうちが、全てを語って余すところなしさ」

思いがけない言葉だから、まさか本心ではなかろうと疑った。

しかし苦笑のひいた青木の顔は、打ちひしがれたように蒼ざめている。いったい本気なのか、と長平は呆れた。

「実は、礼子がくることになってるのだがね」

「ここへかい」

「いや、喫茶店で待ってる。もう来てるだろうよ。会ってやってくれよ」

「どうして君は会わせたがるんだい」

「ジャケンなことを言う人だねえ。会ってやったって、いゝじゃないか」

カンジンなところへくると、青木は返答の急所をはずす。彼の気の弱さだと長平は考えるが、策謀と受けとれぬこともない。

嫌いでもない女房に逃げられたという。逃げた原因はほかの男に気が移ったせいだと女房自身言明している。

当の男が、逃げられた亭主の前に現にいるのだ。そして、一方的に気が移ったからと云って、離婚の責任を男に押しつけられては困るし、それぐらいの常識は誰しも持つのが当然だが、この御夫婦に限って妙に押しつけがましいのが腑に落ちない、と男が亭主にきいているのだ。