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まちはふるさと

街はふるさと

坂口 安吾

「読売新聞 第二六三六七号~第二六五二〇号」1950(昭和25)年5月19日~10月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 193,435 字 · 389 页

青空文庫

私の心には、いつも兄さんがいて下さるので、私はどんな不平も忘れることができたのでした。好きになれないお客さんと枕を並べてねて目をさました朝でも、兄さんがいて下さると思うだけで、明るいキゲンになることができました。いいえ、かえッて、キライなお客さんほど大切にしてあげようと思いました。きめたお金を朝になって半分にねぎられても、我慢することができましたし、ぶんなぐられて、貰ったお金を取り戻されても、苦笑しただけで忘れることができました。くる朝も、くる日も、微笑して迎えましょうと思っていました。

こう申し上げたとて、私は兄さんを恋していたのではありません。兄さんを恋すなんてセンエツなこと、どうしてできましょう。ヤエちゃんなどが、私がそうでもあるように皮肉なことを言うとき、兄さんに申訳なく思う気持で、そのときだけはヤエちゃんを殺したくなることがありました。私のようなものが兄さんを恋することは、兄さんを傷つけることです。兄さんを侮辱することです。私はどんな大罪人とよばれてもかまいませんが、兄さんを傷つけた罪に服すことは我慢ができません。

兄さんは、私の心にともる灯でした。