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まちはふるさと

街はふるさと

坂口 安吾

「読売新聞 第二六三六七号~第二六五二〇号」1950(昭和25)年5月19日~10月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 193,435 字 · 389 页

青空文庫

と、彼は内心せせら笑った。

「オレをまいて、長平さんと会いに行こうという寸法か。笑わせちゃアいけないよ。オレの目の黒いうちは、どんなに落ちぶれても、お前さん方若い者に」

二人がマルセイユへはいったのを見とどけると、青木は三十分、店の傍に見張っていた。大庭長平が先にきているはずはない。おくれて来ると見てとって、待ちかまえていたのである。これが失敗のもと。二人のあとからすぐはいれば、せつ子の姿を認めることができたかも知れなかった。

三十分待ってもこないので、扉を排して、はいる。敬々しく近づくボーイに目もくれず、まずサロンをゆっくり見廻したが、二人の姿も、長平の姿も見えない。スペシャル・ルームにひッこんでいるのだ。

「小説家の大庭長平さんのお部屋へ案内していただきたい」

「大庭さんとおッしゃる方ですか」

「そう。五十がらみのデップリした西郷さんのような大男だよ」

「ちょッと分りかねますが」

「三人づれだよ。はじめ西郷さんが待ってるところへ、美青年と美少女がアベックで訪ねてきたはずさ。しらべてみたまえ」

ボーイは他の数人の同僚たちに訊いてまわったのち、

「大庭さんとおッしゃるお客様は本日はお見えになっておりません」