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うらぎり

裏切り

坂口 安吾

「新潮 第五一巻第九号」1954(昭和29)年9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,343 字 · 70 页

青空文庫

日野はここへ出入りして、時々なにかにありつかせてもらっていたようですが、タダメシに毛の生えた程度のものらしかったようです。

「これぐらい忠実にやってんだから、オレの事務所で働けよぐらいのことを云ってくれてもよさそうだと思うんだけど、云ってくれないのでね」

と日野はぼやいていました。彼は法本を社長とよんだり先生とよんだりしていました。なぜ先生かと申しますと、彼は一流のファシズムを信奉しており、その共鳴者が七人いました。そのファシズムは皇室中心主義の右翼とは関係のないもので、権力主義のファシズムです。全てを動かすものは金であるという徹底した金銭中心主義の宗教団体のようなものだと日野は云っていましたが、彼自身もその理論になかば共鳴していたようです。もっとも法本の事務所に働いている人たちは七人の共鳴者のうちの何人かですから、彼も八人目の共鳴者になってその事務所で働かせてもらいたい下心によるもののようでしたが、法本は彼を共鳴者と認めてくれぬ由です。ところが日野は単に打算のせいだけでなく、かなり本心から法本の理論に傾倒している傾きがありました。彼が法本をかなり偉い人と認めていたことは確かです。