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うらぎり

裏切り

坂口 安吾

「新潮 第五一巻第九号」1954(昭和29)年9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,343 字 · 70 页

青空文庫

ていました。

ぼくとの関係で阿久津へ出入りするようになったころは斜陽族もそう物を云わない時世になっていましたから、そこは心得たもので、たまに匂わす程度にしか斜陽族ぶりません。ライスカレーを二枚三枚お代りするにもモジモジしてとても上品に乞食ぶるのがあざやかでして、週に二度か三度ぐらい、それ以上は来ません。モジモジしながらいつもライスカレー三枚はペロリと平らげていました。

阿久津のトオサンはいわゆる酸いも甘いも噛みわけた苦労人でお気に入りには毎日でもタダメシを食わせてくれる人ですが、バカではありませんから斜陽族の乞食演技にコロリといくはずはありませんが、トオサンがシンから日野を信用するに至ったのは村社八千代の一件からでした。

八千代サンはヒロポン中毒の可愛い女学生で、詩人です。日野とは同人雑誌の同志でした。新興成金の娘ですが小遣いも盗みだしたお金もみんなヒロポンにつぎこむらしく、年中文なしでピイピイ腹をすかしていましたから、日野がウチ(阿久津のことです。ぼくは板前見習い兼出前もちです)へつれてきて彼女にタダメシをゴチソウするようになったわけです。彼女の食いっぷりが日野に輪をかけてもの凄くアラレもないこと甚しいので、トオサンは一目みてひどく同情して、もっと食いねえ食いねえというわけ、それをまたガツガツとむさぼり