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うらぎり

裏切り

坂口 安吾

「新潮 第五一巻第九号」1954(昭和29)年9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,343 字 · 70 页

青空文庫

「どうも失礼。いただくわ」

と云ってハイボールのコップをとってキューと一息に飲みほしたものですから、セラダは茫然、つづいて狂喜雀躍、ただもうむやみに両手をすりあわせ肩をゆすって相好をくずしました。

「アリガト。アリガト。八千代サン。アナタ、ステキです」

自分でバーへとんで行ってダブルのハイボールをつくってきました。ちょうどそこへ日野が注文しておいた八千代サンと二人分のビフテキをナギナタ二段嬢が運んできたのですが、すっかりむくれた日野はビフテキ二枚ともとりあげて両手に捧げて別のテーブルへ移転です。これをそのまま見送るわけにいきません。八千代サンの胃袋は空腹のため思念もとまれば視力も薄れ失心状態も起りかねないほど急迫していたからです。八千代サンは日野のテーブルにせまりました。その執拗な攻撃力を熟知している日野は両手をひろげて二枚のビフテキの上へ胸もろともにトーチカをつくりました。

「一枚は私のよ」

「ぼくがお金を払うのだから、ぼくのだ」

「だしなさい」

「イヤだ」

たまりかねてセラダが駈けよりました。

「ワタクシたち、別にビフテキ注文しましょう。いらッしゃい」

「それまで待つわけにいかないわ。