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うらぎり

裏切り

坂口 安吾

「新潮 第五一巻第九号」1954(昭和29)年9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,343 字 · 70 页

青空文庫

してみると男の本性も紳士にあるのでなくて兵隊にあるのかも知れず、世界秩序の本態も平和にあるのでなくて戦争にあるのかも知れん、と日野は考えてしまったほどです。彼がこう考えたのも、フシギに自ら反省する頭を失わなかったからで、なぜなら彼は八千代サンの愚劣きわまる獣的異変と色情狂的酔態を見まもっている間中、彼自身の性器が完全にボッキしたまま挫折することがなかったのを見出したからです。つまり彼自身の兵隊性を自覚せざるを得なかったのでした。

ところが翌日の新聞に思いがけない記事がでていました。セラダと八千代サンは遠出ではなかったのです。セラダが酔っぱらッて運転していたために自動車を電柱にぶつけ、そこにでていた屋台をひッくり返して、自動車もひッくり返ったらしいのです。幸い死人はありませんでしたが、セラダは軽傷、八千代サンはやや重傷、ガラスでケガをしたらしいと想像されました。

日野は新聞をよむと、とるものもとりあえずのていで八千代サンが手当てをうけたという病院へ行ってみました。もうわが家へ戻ったあとでした。ケガは幸い顔でなく、ノーシントーとカスリ傷で大したことはなかったのです。