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うらぎり

裏切り

坂口 安吾

「新潮 第五一巻第九号」1954(昭和29)年9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,343 字 · 70 页

青空文庫

別に深いワケはなかったのですが、まだ寝みだれ姿で便所へ立って、そこでバッタリと、すでにすっかり仕事着をきたトオサンと顔を合せた小夜子サンは自分の朝寝坊や寝みだれ姿が味気ない気持になって「オハヨー」と顔をそむけて背をむけました。茶のみ友達の窮屈なところでしょうか。茶の湯や活花の類が常にのしかかるような感じがし、それをトオサンが決して強制しないのに、どうも茶のみ話の玄妙に心がいじけていけなくなっていたのです。便所の中でちょッと頭痛がするような苦痛を覚えたのです。

小夜子サンがまさに便所から出て来たとたんでした。ブーブーブーと景気よく自動車が鳴りたてました。むろんセラダにきまってます。小夜子サンは解放感でフラフラしました。たったそれだけのことです。そこへセラダが本日こそはと意気高らかに乗りこんできて、寝みだれ姿も物かは、いきなり哀願泣訴の意気ごみを見せたものですから、小夜子サンはアラーッ、キャーッと部屋へ逃げこんで障子をバッタリしめて、

「待ってね。いまお化粧して行きますから」

今までにないキゲンのよい声です。障子のあちら側でセラダがしきりに手をもみ肩をゆすって酩酊状態になっているのは、この店の者なら察しがつこうというものです。