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はだかぎ

裸木

豊島 与志雄

「新潮」1926(大正15)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,049 字 · 33 页

青空文庫

ごくたまに……。」

「女を買うのか。」

「…………」

快活に微笑んでた佐野は、意外なものにぶつかった。武田とは以前時々、待合にこそ行かなかったが、芸者を呼んで騒いだこともあった。その武田が……。

「そして細君は……。」

軽い驚きから一転して、佐野は愉快なそして道化た調子になった。

「大丈夫さ。何も知らないよ。また知ったとて嫉妬を起すほどのことでもないからね。僕はすぐに相手の女の顔も名前も忘れちまうんだ。まあ、たまに家庭外の飯を食う、それくらいのことにしか当らない。そして元気になりゃあ、それでいいじゃないか。」

「そんなばかなことが……。」

「実際そうなんだから仕方ないよ。何でもない、一寸した刺戟性の香料みたいなものさ。……香料と云やあ、面白い話があるよ。僕の友人に医学士がいてね、ふと考えついて、病院の実験室で女の鬢附油を使ってみた。何でも硝子と硝子とを密着さして空気の流動を防いで、その硝子器の中で血液中の酸素を調べたりなんかする実験なんだ。その硝子を密着させるのに、普通はワゼリンを使用するんだが、粘着力がわりに弱い。そこで鬢附のことを思いついて、やってみると、なかなか成績がいい。