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はだかぎ
裸木
豊島 与志雄
「新潮」1926(大正15)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,049 字 · 33 页
」
「あ、そりゃあ、僕自身だって、時々ひやりとすることがある。」
「冷りとする。」
「何だか変に物が……周囲の世界が、象徴的に神秘に見えてくることがあるんだ。そんな時、亡くなった妻の姿……一種のイメージだね……それが、そこだけぽかっと空虚になって、真空というほどになって、はっきり浮出してくる……。」
「例の……形体ある空虚か。」
「それで僕は、変に堪らない気持で外へ飛び出す。そしてむやみと……彷徨するんだ。犬みたいだね。何かしら探し求めずにはいられなくなる。街路を通ってる女達の顔を、一々覗き込んでることがある。自分でも知らず識らずにだよ。気がついてみると……。」
武田は眉根に深い皺を刻んで、老人のような額をしていた。
「それじゃあ、少し遊んでみるといいんだよ。」
「ばかな、そんな真剣な道楽が出来るものか。ただ酒だけはよく飲むが、露骨な肉体は堪らない。」
「露骨な肉体……。」
「そうじゃないのか、君は……。」
「僕の……。そんなんじゃないよ。ただ……。」
佐野は言葉につまった。そうだともそうでないとも云えない気がした。
「鬢附油の匂いなんて、そうじゃないのか。」
「単なる匂いさ。