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はだかぎ

裸木

豊島 与志雄

「新潮」1926(大正15)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,049 字 · 33 页

青空文庫

「武田さんて、可笑しいんですよ。うちの坊やにすっかり惚れこんじゃって……。」

「お前に惚れこんだんじゃないのかい。」

「なら……まだいいけれど……。」

「ばかな。」

次々に敏子から聞く武田の話に、佐野は一種懸念に似た関心を覚えてきた。

いろんなことがあった。

――赤ん坊は、日によって感じがちがう。林檎のような時もあるし、水蜜桃のような時もあるし、桜ん坊のような時もある。

――赤ん坊は、変に股が太って足先が痩せて、腕が痩せて手先が太ってるものだ。

――赤ん坊の眼は、澄んではいるが、本当の美しさは少い。唇は醜い。一番美しいところは手足の爪だ。

――赤ん坊の無意味な声音は、時によって、ひどく表情的だったり、没表情だったりする。声音に表情が多い時ほど、精神活動が盛んなのだ。

――赤ん坊には全く果物みたいな匂いがある。匂いの強い時ほど栄養がいいのだ。

――赤ん坊の声音の表情と身体の匂いとが大抵反比例するのは不思議だ。栄養がいいほど精神活動も盛んな筈だが、或いは、栄養がいいと精神的欲求がとまるのかも知れない。

――赤ん坊の皮膚は、産毛ばかりで、黒子も雀斑も全くない。