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はだかぎ
裸木
豊島 与志雄
「新潮」1926(大正15)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,049 字 · 33 页
そこに妙な距てがある。その距ての中で、赤ん坊はぴょんぴょん跳ねている。女中がやってくる。敏子の手から女中の手へと、赤ん坊は往ったり来たりする。武田は赤ん坊の動作に見とれている。「まあー、何を感心していらっしゃるの。」「いや実際……。」面白いと云っていいか素敵だと云っていいか分らないのを、武田は不器用な顔付で示す。敏子と女中とが笑う。「自分も昔は赤ん坊だったかと思うと、不思議な気がしますよ。」「どうして……。」「どうしてって……まあかりに、一度も赤ん坊を見たことのない者があるとすれば、その者は屹度自分が昔赤ん坊だったことなんか、夢にも知らないでしょう。」「夢にくらいみるかも知れませんよ。」「さあ……。僕は一度も赤ん坊の夢を見たことがないんです。」「ほんとに。」「ええ。」敏子は信じられないという顔付をする。武田は淋しく微笑する。それから、ふいに憂欝な仮面みたいになる。赤ん坊が快活に躍り跳ねている。静かだ……。
佐野は、自分一人がその群から圏外に出てるように感じた。
――こいつはどうも少し変梃だ。
彼はまじまじと敏子の眼を覗きこんだ。
敏子は聊かたじろぎもしなかった。