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はだかぎ
裸木
豊島 与志雄
「新潮」1926(大正15)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,049 字 · 33 页
」
品川か……大森か……羽田か……そんなことを独語しながら、彼はなおゆっくり構えこんで髯を剃り初めた。
――海なんかどうでもいいんだ。俺は……いや、そういう風なお前が可愛いいんだ。お前が可愛いいからこそ……。
そんな理屈はない筈だけれど、兎に角彼は、そういう場合の敏子が可愛いかったし、可愛いければ可愛いいほど快活な気分になって、華やかな巷の方へいそいそと出歩いてゆくことが、ぴったり胸におさまった。
「夕飯は……まあどっかで済しちまおう。……少し帰りは遅くなるかも知れないよ。」
「遅いのはいつものことじゃありませんか。」
何の疑念もなく微笑んでる敏子の眼付に、彼も微笑で応じた。
「あ、全くだ。夜遅く、もう電車もなくなった街路を、ぶらりぶらり歩いてくるのは、実にいい気持のものだよ。お前には分らないかなあ……。」
「…………」
分ったとも分らないともつかない、うそうそとした彼女の顔を、その姿を、彼は抱きしめて揺ぶってやりたくなった。それを我慢して、彼女の手を取りながら、踵を浮かし、爪先ですっすっと、ダンスの真似をやってのけた。
「いやよ、何をなさるの。」
「ははは、一寸ね……。