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せいこのしじん
西湖の屍人
海野 十三
「新青年」博文館、1932(昭和7)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,487 字 · 39 页
「なに、霊媒? これはわしの魂が乗り移っている霊媒の婦人の肉体だというのか。ああ……」女史は頭をかかえて、其の場に俯いた。やがてその下から泣き声が洩れてきた。獣の叫びごえに似た怪しい響をもった泣き声だった。
「ああ、いつの間にか、わしは死んでいた!」
女史は、慨きのあまりか、容易に身が起せないようであった。
「どうです。今日は、その辺で止めておいては……」隣席の老人が、二人に注意した。
曽我貞一は、連れの神田の興奮に青ざめたような顔をチラリと見たうえで、老人に、止めることを頼んだ。
老人は、再び大竹女史の前に膝をつくと、何やら呪文のようなものを唱え、女史の額のへんを二三度、撫でるようにした。
女史は、元の女らしさに立帰って、静かに上体を起した。そしてケロリとした顔で、一座を眺めると、やや気まり悪そうに、はだけた前をかきあわせたのだった。
二人の背広男は、このとき丁寧なお辞儀をすると、席を立った。場慣れているらしく、始終ベラベラ喋った曽我貞一という男、それに反して一語も発しないで、唯興奮に青ざめていたような神田仁太郎と呼ばれた若い方の男――帆村はそれをぼんやりと見送っているような顔付をしていたが、その実、彼の全身の神経は、網膜の裏から、機関銃を離れた銃丸のように、両人目懸けて落下していたのだった。