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せいこのしじん

西湖の屍人

海野 十三

「新青年」博文館、1932(昭和7)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,487 字 · 39 页

青空文庫

漢青年は、またいつものように、あの不思議な日以来の出来事を復習し、隅から隅まで緻密な注意を走らせてみるのだった。

その頃、彼は故郷の杭州を亡命して、孫火庭という家扶と共に、大日本の東京に、日を送っていた。日本へ渡ったときは、まだ小さい少年だったので、日本語を覚えるのに余り苦労をしなかった。彼はいつしか、家扶の孫火庭がつけてくれた日本名の神田仁太郎という名を愛していた。孫火庭自身も日本人らしく曽我貞一と名乗って、中国人らしい顔色を何処かに振りおとしていた。

二人の生活は、出来るだけ質素を旨とした。孫火庭は、中国料理のコックと称して、方々の料理店を渡りあるいた。そのとき、漢少年を自分の甥だと称して、一緒につれあるいたのだった。

この数年は、丸の内のお濠近くにあるカフェ・ドラゴンを買いとって、二人は行いすましていた。漢于仁は少年期をとびこして、いつしか立派な青年となっていた。そしてその瀟洒たる風采と偉貌とは、おのずから貴人の末であることを現わしているかのようであった。彼は、いつとなく、銀座や新宿のカフェ街に出入することを覚えてしまった。彼の男らしい容姿と、豊かなポケット・マネーは、どの店でも女給達をワッワッと騒がせずには置かなかった。