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せいこのしじん
西湖の屍人
海野 十三
「新青年」博文館、1932(昭和7)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,487 字 · 39 页
入ってみると、そこは何の変哲もないカフェだった。広いと思ったのは、表だけで、莫迦に奥行のない家だった。帆村は先登に立って、ノコノコ三階まで上った。各階に客は四五人ずついたが、私達の探している相手らしいものの姿は、どこにも見当らなかった。
「なに召上って?」
入口にいた女給が、三階までついてきた。
「ビールだ。で、君の名前は?」
「マリ子って、いうわ、どうぞよろしく」
イートン・クロップのお河童頭がよく似合う子だった。前髪が、切長の涼しい眼とスレスレのところまで垂れていた。なによりも可愛いのは、その、発育しきらないような頤だった。
「おいマリちゃん」すかさず帆村が、彼女の名を呼んだ。「ここ、特別室があるんだろう。地下室か、なんかに、そこへ案内しろよ」
「地下室なんて、ないわよ。この三階がスペシャルなんじゃないの、ホホッ」
と、やりかえして、マリ子は下へ降りていった。
煙草の箱を探そうと思ってポケットへつきこんだ指先に、カチリと硬い物が当ったので、私は思いだした。
「おい、戦利品だ」私は、帆村の脇腹をつついて置いてから例の男の上衣から失敬したものを、卓子の下にソッと取り出した。