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にしおぎずいひつ
西荻随筆
「文学界 第一巻第一号」1949(昭和24)年3月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,343 字 · 7 页
まさしく手紙の主のTなる姓であるから、なるほど、左様な次第であったか、と、私も合点がいった。
戦争前には、僕のニセモノはずいぶん横行した。ニセモノの横行する条件がそろっていたのである。つまり、坂口安吾という顔は誰も知らない。文壇の内部では、名前だけは通用する。広い東京には、文学女給、文学芸者、文学ダンサーなど、頓狂なのが居るもので、そういうところでは僕の名前が通用して、まずシッポのでる心配がないから、ニセモノが横行し、中には文学青年のグループを手ダマにとって、羽振をきかせて威張っていたのもいた。俳句をつくるアンゴ氏もおり、色紙を書き与え、ホンモノの企て及ばざる芸達者な威風を発揮し、先日その色紙を見たが、惚れ/\する筆蹟であった。
十年ほど前、京都に二年ちかく放浪していた留守中、銀座に羽振をきかせていたアンゴ氏は最も優秀な手腕家で、モダン日本の木村正二が京都の僕を訪ねての話に、銀座のアンゴ氏は当時銀座有数の美貌の女給とネンゴロになって岡焼き連をヘイゲイしていた由で、こういう有能なアンゴ氏なら、いっそ本家を譲り渡して、天下に威名をあげて貰いたいものだと考えたほどであった。