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『さいゆうき』のゆめ

『西遊記』の夢

中谷 宇吉郎

「文藝春秋」1943(昭和18)年1月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,947 字 · 18 页

青空文庫

一番奥の六畳間が、仏壇の間になっていた。仏壇の間は昼でも薄暗かった。家に不相応な大きい仏壇は旧くすすけていて、燈明の灯がゆるくゆれると、いぶし金の内陣が、ゆらゆらと光って見えた。

その家の老母は、仏壇の前にきちんと坐って、朝晩お経をあげていた。そして月に二、三回もお坊さんが来て、長いお経をあげた。小学生の私もその間は必ず老母の横にきちんと坐ってお経をきいていた。そういうことも日課のうちの一つとして、家の中の人も私もちっとも変ったこととは考えていなかった。

足の痛いのを我慢しながら、じっとお経をきいていると、だんだん睡くなって来る。時々燈明がぼうっと明るくなると、仏壇の中の仏像だの、色々な金色の仏様の掛軸だのが、浮いて見えた。そして孫悟空のいた時代がそう遠い昔とは感ぜられなかった。

太宗皇帝の水陸大会に、玄奘法師の錦襴の袈裟が燦然と輝き、菩薩が雲に乗って天に昇ると、その雲がいつの間にか斗雲にかわって、いつか自分は水色の綿蒲団の下に蒸されるような息苦しさを感じた。そういう時には、金色の燭台の一点が燈明に鋭く輝いて、その光点から金色の箭が八方にさしているのを、唯一のすがりどころとじっとみつめていた。