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「みること」のいみ

「見ること」の意味

中井 正一

「国民芸術」1937(昭和12)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,534 字 · 8 页

青空文庫

よく芝居気分といっている気分がある。芝居を見にいこうと思って着物を着替えたりするころから、何か浮き浮きしている。母親が娘に冷やかされたりするほどいつもと異なった人間になりかわっている。母親は母親の威厳やとりすましを失って、一箇の人間になっている。博士はうっかり博士を忘れているし、軍人は劔を忘れ、商人は算盤を忘れ、僧侶は宗教を忘れて、おかしければ笑い、悲しければ泣いている。みんな子どもになって遊んでいる。

劇場においては、臨検の警察官もその職務を忘れて泣くはど、人間全体が、一箇の原始人に帰ってなまの裸の気分で舞台を見つめている。

「見る存在」とでもいいたいような存在に、人間がなりすましている。いじましい職業を忘れかけていもすれば、貧富も忘れかけている。身分も見ている間は消えかけている。そんな人間はありえないはずなのに、それへの傾きをつよく強いる性質を舞台はもっている。またそれが本質でもあるようである。職業意識も、身分もない人間、真に、もう一度全部を考えなおして、正しく生きなおさなくてはならないはずの人間に、正しく人間を建設する人間に、一瞬でも人間を引きあげることは注意すべきことである。