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きく
親しい友人たち 山川方夫ミステリ傑作選
山川 方夫
山川方夫『親しい友人たち 山川方夫ミステリ傑作選』。同一底本的分册已合并为一书。收入:菊、トンボの死、ロンリー・マン、愛の終り、赤い手帖、暑くない夏、あるドライブ、恐怖の正体、蒐集、ジャンの新盆、博士の目、はやい秋、非情な男、メリイ・クリスマス。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 67,486 字 · 144 页
でも、註文したハイボールを飲むあいだぐらい、目を開けているのはやむをえないだろう。
しかし、そのカップルは彼の存在がよほど気になったとみえ、それまでのひそひそ話を中止すると、娘がハンド・バッグから小さな赤革の手帖を出し、二人は、それで筆談をはじめていた。交互に頁をめくってはなにかを書き、それを見てはまた細い鉛筆をうけとる。ことに娘のほうは、相手が読んでいるときじっとその横顔をみつめていて、それはけっこう愉しげな光景にも眺められた。
男は工員ふうで黄色いナイロン・ジャンパーを身につけ、娘は淡いピンクのカーディガンを、きちんと喉もとまで釦をはめて着ていた。きっと両方とも、まだ十七か八か、そこいらだろう。一杯のハイボールを空にすると、彼は腕を組み、目をつぶった。すぐ眠った。
眠たげな眼のボーイが彼の肩をゆすったのは、そろそろ店が営業をやめる午前九時近くだった。プラスティックの扉の向うに、すでに白っぽく眩しい初夏の朝が来ていて、彼は首すじが痛んでいた。
店の客のほとんどは姿を消し、向い側の席にいた二人づれも、その姿がなかった。忘れたのか、汚れた黒い卓の上に、昨夜みたあの赤革の手帖が斜めに置かれている。