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おやかたコブセ

親方コブセ

金 史良

「新潮 通卷四百四十四號(一月號)」新潮社、1942(昭和17)年1942(昭和17)年1月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,006 字 · 16 页

青空文庫

すると血が顔に上って船酔いしねえそうだ。億劫だったら、そうだな、より紙でもこさえて鼻穴をつついて嚏をするこったな」

男達は神妙に肯いてみせた。

「それから何でも台湾の手前かに物凄く荒れるとこがあってな。甲板にでも出ていたら気がくらくら滅入って、何でもねえ奴がふらふらと海に飛び込むそうだ」そこで彼は荷物でも担ぎかえるみたいに、一度背瘤をぐらりっと蠢かした。「だから、ええか。船にへえったらちゃんと船長に聞いといて、そんな辺りでは絶対に甲板へ出んことだぞ!」

「親方、わっしらの往くとこあ、台湾ちゅうとこかのずっと先かえ?」タオルを首に巻いた男が質ねた。

「そらずっと先だ。ずっと、ずっとだよ」と、親方コブセは殊更長く見える手を振った。「そうだな、ここから釜山まで位だ。或はもっとあるかも知んねえ。おうい、一寸待った。みんなここで待ってくれ、煙草を買ってやらあ」

こう云い残して彼は一同を煙草屋の前に屯させて、自分でひょこひょこはいって行った。そして手を振り廻しながら何やら盛んに掻き口説いてから、どっさり空箱を懐の中から掴み出し、それと引換えにありったけを買ってへらへらわらいつつ出て来た。