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うたせてやらぬかたきうち
討たせてやらぬ敵討
長谷川 伸
「歌舞伎 秋季臨時増刊」歌舞伎出版部、1925(大正14)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,752 字 · 22 页
「老人ここへこい、家の中は槍には不便じゃ」
大刀を抱いて、宮内は、草の生い茂っている前の空地へ出た。
「非力者め、小癪なッ」
空地へ悠々と出て行った治部太夫は、刺して誉れになる対手ではないが、娘きいの嫁入り以来、婿の慎九郎と不和な宮内だけに、今こうして身の力量をも顧みずに、争いを挑んできた遺恨の種はわかっていた。田楽刺しにしてやることが、却って娘夫婦のためだと思った。故に老巧な治部太夫は、必殺の構えをつけた、鶏を割くに牛刀をつかう恨みを、心のうちに感じながらも、着実に進退した。
宮内は大刀を抜いて、有名な槍の名手に対して、はじめて自分の予想が、ピタと思い当った、宮内はまことに大胆不敵になり得ているのだ。槍の先から恐怖を感ずることがない、赤ぐろい治部太夫のまじろぎもせぬ眼の光に脅迫を些も感じていない、平常とただ違うのは呼吸の紊れだけだ、それも気がつくとほどなく、平調に復しかけてきた。
「この上するべきことは、身を殺させて敵を刺すそれ一つ、一途に――それッ」
突くと見せる治部太夫の虚に、宮内はヒタと進んで刺されようとした、間髪を容れず、事の意外に気を打たれた治部太夫が、愕いたその刹那に、非力者宮内の太刀は冴えた。