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きろくきょうじだい
記録狂時代
寺田 寅彦
「東京朝日」1933(昭和8)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,453 字 · 9 页
「すらすらと書けばよい」という話である。真偽はとにかく、これと似た事は、精密器械などをあつかう人のしばしば経験するところである。また、一秒の十分の一というような短い時間でも天体観測の練習などしてみると、だんだんに長いものに思われてくるのである。
器械文明が発達すれば、精密なことは器械がしてくれるから人間はだんだん無器用になってもいいかというに、そうではなくて精密な器械を使うにはやはり精密な感官を要するので、器械の発達につれて人間も発達しなければ間に合わない。大和魂だけで器械を使ったのでは、第一器械もこわれるが、場合によっては自身の命も危ういのである。精密器械を作るのでも最後の仕上げは人間の感官によるほかはないような場合が多い。こういう点で、この細字書きのレコードは単に閑人の遊戯ばかりともいわれない。考えようによってはランニングや砲丸投げなどのレコードよりもより多く文化的の意義があるかもしれない。体力だけを練るのは未開時代への逆行である。
タイピストの一九二九年のレコードは一分に九十六語でこれはフランスの某タイプ嬢の所有となっている。これなども神経のはたらきの可能性に関するものである。