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しけんかん

試験管

寺田 寅彦

「改造」1933(昭和8)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,595 字 · 20 页

青空文庫

とか題する時代劇であった。その中に、数人の浪士が、ちょこちょこと駆けずり回る場面がなんべんとなく繰り返される。なぜああいうふうにぎくしゃくした運動をしなければならないものかと思って見ているうちに、ふいと先刻見た熱帯魚を思い出した。スクリーンの長方形の格好もほぼあのガラス張り水槽と同じである。画面の灰色の雰囲気が水のようにも思われる。その中を妙な格好をした浪士が、妙にちょこちょことあっちへ走り寄るかと思うと、またこっちへ駆け寄る。みんなでそろっておじぎをしたりする。それが、そう思って見ると、あの先刻見て来た熱帯魚の群れの遊泳するさまとかなりまで共通なところがあるように思われたのであった。

五 熱帯魚(その三)

喫茶店の二階で友人と二人で話していた。椰子やゴムの木の鉢と入り乱れて並んだ白いテーブルを取りかこんだ人々の群れには、家族連れも多かったが、ともかくも自分らのように不景気な男ばかりの仲間はまれであるように見受けられた。

テーブルの横の台の上に、ガラスの水槽が一つ置いてあって、その中にただ一匹の美しい洋紅色をした熱帯魚が泳いでいた。ベタ・カンボジャという魚らしい。